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名古屋高等裁判所 昭和58年(行コ)5号 判決 1984年7月18日

控訴人(原告) 稲垣襄

被控訴人(被告) 愛知県 岡崎市 岡崎市本町康生西第二市街地再開発組合

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は「一、原判決を取り消す。二、1(主位的請求)被控訴人岡崎市本町康生西第二市街地再開発組合との関係で、岡崎市本町康生西第二市街地再開発事業第五の二工区の権利変換処分が無効であることを確認する。(予備的請求)被控訴人岡崎市本町康生西第二市街地再開発組合は控訴人に対し金六四四万〇三二〇円及びこれに対する昭和五一年二月一六日より支払いずみまで一〇〇円につき一日四銭の割合による金員を支払え。2被控訴人らは控訴人に対し各自金一〇〇〇万円及びこれに対する昭和五二年四月二日より支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。3被控訴人岡崎市は控訴人に対し金二〇〇万円を支払え。三、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決並びに金員請求部分につき仮執行の宣言を求め、被控訴人ら代理人らはいずれも控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上及び法律上の主張並びに証拠関係は、次に付加する外、原判決の事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する(但し、原判決一四枚目裏一〇行目の「但し、」の次に「本件権利変換処分が行政処分性を有しないことは前記のとおりであり、」を加え、同一五枚目表一行目から同七行目までを「2 同2項は争う。」と改める)。

(控訴人の陳述)

一 控訴人は訴外会社の代理人である黒河陽弁護士から工事の施行主体は訴外会社であるとの説明を受けたので、その工事は再開発事業と関係のない訴外会社独自の開発工事であると信じて、訴外会社との間で本件合意解約に応じたのである。ところが、この工事は施行主体はともあれ、再開発事業のためのものであつた。とすれば、法の定めるところに従い、権利変換手続が行なわれなければならない。このように、控訴人が工事目的を再開発事業であると認識しておれば、本件合意解約に応じるはずがなかつた。したがつて、本件合意解約は工事目的の点に要素の錯誤が存するから無効である。

二 また、控訴人の要求金額が膨大な額であるとしても、明渡しの同意のないまま被控訴人組合が再開発事業を強行着工してよい道理はない。五―二工区の権利変換手続を法の規定通りに履践せず、補助金目当てに五階建の立派なビルデイングを取り壊す行為も敢えて行なわれているのである。岡崎市長は都市計画事業としての再開発事業を適法に遂行させる責任を負つているのであるから、これらの事実に目を覆つている以上、岡崎市議会における岡崎市長の説明は、真実を述べたことにならない。

(証拠関係)<省略>

理由

一  当裁判所も、控訴人の被控訴人組合に対する主位的請求に関する訴は不適法として却下し、同被控訴人に対する予備的請求及び被控訴人らに対するその余の請求はいずれも失当としてこれを棄却すべきものと判断する。その理由は、次に訂正・付加する外、原判決の理由説示と同一であるから、ここにこれを引用する。

1  原判決一八枚目裏五行目の「一〇月三〇日」を「一〇月三一日」と改める。

2  原判決二〇枚目裏四行目の「本件権利変換処分は、」の次に「法の規定に従い市街地再開発事業を行なうため愛知県知事の認可を受けて設立され、法に基づく事業を行なう権限を付与された、公法人たる被控訴人組合によつて、」を加える。

3  原判決二一枚目表末行の「誤信していた」の次に「上、右工事が被控訴人組合の再開発事業のためのものであつたのに、訴外会社独自の開発工事であると信じていた」を加え、同裏三行目の「本件全証拠によるも」から同四、五行目の「採用できない。」までを「本件合意解約が控訴人と訴外会社双方の自由な意思で成立したのであれば、控訴人はこれにより本件再開発事業における関係権利者としての地位を失うことになるから、控訴人に対し法定の権利変換手続をしなかつたとしても、そこには何ら違法が存しない。それ故、本件合意解約の成立それ自体をとらえて、法定の権利変換手続の履践を回避することを目的としてなされたものと速断することは相当でない。そして、本件合意解約が右にいう回避を目的として訴外会社側の不正手段により成立したとの点については本件全証拠によつてもこれを認めることができない。したがつて、右(ロ)の主張は採用できない。」と改める。

4  原判決二二枚目表一行目の「証人橋本」から同三行目の「一五号証の一ないし三」までを「いずれも原審証人橋本介伸の証言(第一回)により真正に成立したものと認められる甲第二号証、第六号証、いずれも原審証人牛田一三の証言により真正に成立したものと認められる甲第一四号証、第一五号証の一ないし三」と改め、同五行目の「争いがない)、」の次に「いずれも原審証人橋本介伸の証言(第一、二回)により真正に成立したものと認められる」を加え、同二三枚目表一行目の「九三万九〇〇〇円」を「九三万〇九〇〇円」と、同裏四行目の「一二月二〇日」を「一二月一〇日」と、同二四枚目表三行目の「七月上旬」を「五月下旬」と、同裏七行目「大亜建設株式会社」を「株式会社大亜建設」とそれぞれ改め、同二六枚目表末行の「反する」の次に「当審証人高木克昌の証言」を、同裏二行目の「甲第二一号証の一」の次に「、右証言により真正に成立したものと認められる甲第二三号証、」をそれぞれ加え、同じ行の「同号証の二、三」を「甲第二一号証の二、三、同第二四号証」と改める。

5  原判決二六枚目裏五行目から同二七枚目表一行目までを次のとおり改める。

「4 以上において認定した事実によれば、控訴人は営業不振のため廃業を希望していたものの、訴外会社が予定する明渡し期限までに訴外会社との間の補償交渉が妥結しなかつたため、他の借家人がすべて立ち退いた昭和五一年二月一六日以降も従前どおり「たつきビル」内の店舗に留まつていたのであるが、その後控訴人が訴外会社代表者を威力業務妨害罪で告訴したり、被控訴人組合施行の本件再開発事業の着工期限が同年三月中旬と迫つてきたため、訴外会社としては控訴人の要求額を大幅に受け入れる外ないと考え、当初の提示額を一〇倍以上も上回わる金三六九五万七〇〇〇円を廃業補償金として控訴人に支払うことに決し、控訴人もこれを了承した上、休業補償費金六四四万円の要求は撤回することで、同月一二日本件合意解約が成立したものであつて、控訴人が同年二月一六日以降営業不能になつたため、やむなく右解約に応じたものと解することはできない。したがつて、本件合意解約は民法九〇条に違反する旨の控訴人の前記(イ)の主張は、採用できない。

また、前記認定事実によれば、昭和五一年二月一六日以降本件合意解約成立までの間に施行された「たつきビル」内の工事の施行主体は、訴外会社であつて、被控訴人組合ではないし、控訴人は前同日以降も「たつきビル」内に留まり、訴外会社代表者を告訴するなどして工事内容の実態を熟知しながら、本件合意解約に応じたものというべきである。したがつて、本件合意解約に応じた際、控訴人に右工事の施行主体及び工事目的につき錯誤が存したと認めることはできず、この点に関する控訴人の前記(ハ)の主張も、採用できない。」

6  原判決二七枚目表一〇行目冒頭の「二」を「三」と改める。

7  原判決二八枚目裏一行目の「慰藉請求」を「慰藉料請求」と、同二九枚目裏五、六行目の「認められ、」を「認められる。なお、控訴人が当審における陳述二において主張するようなことが真実であるとしても、岡崎市長が岡崎市議会において右の点に言及しなかつたことにより、同市長の右発言が真実性を失うものではない。したがつて、」とそれぞれ改める。

二  そうすると、右と同旨の原判決は相当である。

よつて、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条本文、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山田義光 井上孝一 喜多村治雄)

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